ここから本文です。
国語
田原本校:中島 八木校:田川
読書のすすめ
読書のすすめ
小学生
「あしたのことば」
森絵都 小峰書店
女子のグループが分裂してしまい、その影響でひとりになった風香。そこで風香は、学校で話をしない無口な同級生の瑠雨ちゃんに一方的に話しかけ、一緒にいることが多くなった。国語の授業時間、言葉集めの学習中に瑠雨ちゃんの書いた言葉を見てしまう。自分には思いもつかないその言葉を見たとき、瑠雨ちゃんのことをもっと知りたくなる。さらに風香には、悩みがあった。おじいちゃんのターちゃんのことである。そこで風香は、ある作戦を思いつくのであった。言葉をテーマにした八篇の短編小説である。表題作のほか、光村図書小六国語の教科書にも採用された「帰り道」も収録されている。中学入試でも出題された。
中学生
「十四歳日和」
水野瑠見 講談社
「気がつくと日陰ばかりを目で追っている」佐古葉子は、中学生になり、いけているグループに入れた。明るい三人の友だちといる世界を「日向」だと実感している。しかし、いつのまにか、ついつい「日陰」に目がいってしまう。小学校のときの親友であ、クラス唯一の美術部員の瀬川しおりのことだ。今はもう親友ではないのかもしれない。しおりとは、小学四年生のとき友だちになった。地味でやぼったい葉子は、クラスでもひとりでいた。同じような空気を感じたしおりに思い切って話しかけ、友だちになったのだ。中学に入り、イメージを一新した葉子は、次第にしおりとの距離が開いていく。ただし、今の自分のいる「日向」は本当の居場所ではないと気づいている。十四歳の一年間を描くオムニバス小説である。他に三篇を収録している。
高校生
物づくりの原点回帰 抱腹絶倒の真面目な話
『ゼロからトースターを作ってみた結果』
トーマス・トウェイツ 著/村井 理子 訳 新潮文庫
これぞリアル『Dr.STONE』! 大学院の卒業制作に「ポップアップ・トースター」をゼロから作ろうと思い立ったトウェイツは、9カ月の時間をかけ、3060キロを駆け回り、総額1187.54ポンド(約15万円)をかけ、自らに課したルールを逸脱しないように、原材料を地中から掘り出し、鉄や銅、ニッケルなどの金属やプラスチックを作りだして部品を製作し、組み立てる。しかし既製の安物トースターにさえ、何世紀にもわたり数えきれぬほどの人が知恵をだしあって築きあげてきた、技術的・科学的なノウハウが詰まっている。それをたった9カ月で再現する。どだい無茶な話なんだが、想定外な展開、妥協せざるを得ない事態や大失敗など彼の悪戦苦闘の様子を楽しみ、一方ではつくづく人の知恵ってすごいなとうなずく。果たしてトウェイツは、トースターを再現することに成功したのだろうか。まあ表紙を見れば一目瞭然だが。ただ彼もまた産みの苦しみを経験したすばらしい挑戦者だ。自分は何をゼロから作ることができるだろうか? 自問せずにはいられない。文庫版はモノクロだが、飛鳥新社から出た単行本版(旧題『ゼロからトースターを作ってみた』絶版)は写真がカラーなので、古本で入手できればより楽しめる。
『燃えよ剣』上・下
司馬 遼太郎 新潮文庫
かつて京(みやこ)に新撰組という集団が存在した。生来の暴れ者「バラガキのトシ」土方歳三。剣は天然理心流、愛刀は和泉守兼定。近藤勇(局長)や沖田総司(一番隊隊長)らとともに京に上り、鬼の副長として恐れられる。鳥羽伏見の戦い以降新撰組は朝敵となり、近藤亡き後も土方は戦い続け、最期の地箱館へと向かう。一読されたい。土方歳三という、男のひとつの典型を司馬遼太郎が見事に描く。その物語に惹かれること請け合いだ。この幕末群像劇に登場する人物たちは誰もが個性的かつ魅力的だ。新撰組の物語は数多の作家によって著され、それらを読むたびに土方の人物像は上書きされる。しかしこの「燃えよ剣」に戻るたびに、これが「土方歳三」だと思い直す。昨年映画化された。コロナ禍の影響で1年以上の延期を経、この10月にやっと公開になる。今年は同じ幕末を扱った『峠』(こちらも司馬原作)の映画もあるという。本作を読み返し、映画もぜひ観てみたいと思った。