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国語
小・中学生 中島 高校生 田川
読書のすすめ
読書のすすめ
小学生
「ぼくんちのねこのはなし」
いとうみく くもん出版
一真の家には、十六歳になる猫がいる。名前を「ことら」と言い、一真の生まれる前から飼われている。最近、ことらの様子が変わってきた。以前は、机の上などに飛び乗っていたのに、そんな様子も見られなくなった。好物の焼きのりもドライフードもあまり食べなくなった。お母さんと一真で新しい動物病院に連れて行った。病院の先生は、治らない病気だと言う。ことらは人間でいうと八十歳のおじいちゃんなのだ。一真は、ことらに永遠に生き続けてほしいと思っている。いつかは命の終わりが来ることを頭では分かっていても、なかなか実感がわかない一真である。治療費や延命治療の問題などにも触れていて命との向き合い方をリアルに丁寧に描いている。「朔と新」で第五十八回野間児童文芸賞を受賞した作者であるが、この作品では、第三十八回坪田譲治文学賞を受賞した。
中学生
あめつちのうた
朝倉宏景 講談社
夏の全国高校野球甲子園大会第一日目、雨宮は数万人の観客に取り囲まれ、球場のど真ん中に立っている。腰に巨大なホースを構え、バルブが開くのを待っている。雨宮は、選手ではない。アルプススタンドの吹奏楽部のチューニングの音を聞きながら、内野全体にまんべんなく水をまく。選手も、グラウンドもこの酷暑の大会に耐えてくれと心の中で声をあげながら、ホースをたたんだ。雨宮は、入社二年目の阪神園芸の社員であり、グラウンドキーパーである。試合が始まると、グラウンドキーパーは、待機である。そこへ、四月に入社したばかりの大渕くんが声をかけてきた。雨宮は大渕くんに、一年目のときのことを話して欲しいと言われ、語り出した。甲子園球場や他のスポーツ施設管理や、公園都市緑化活動を業務としている阪神園芸の社員が主人公である。その道のプロとはどういうものか、興味深く読める。
高校生
源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり
山本 淳子 朝日選書
今回の「読書のすすめ」は「源氏物語」特集、それも平安朝文学研究者である山本淳子氏の著作を二つ紹介します。
気は早いですが二〇二四年のNHK大河ドラマは大石静脚本、吉高由里子主演で「光る君へ」。主人公はもちろん紫式部。「源氏物語」の世界も描きながらの平安宮廷ドラマになると思いますが、紫式部に和泉式部、赤染衛門、伊勢大輔などを女房として従えた中宮彰子のサロンに興味があるので今から期待しています。
一条朝の幕開けは、教科書でもお馴染みの前帝(花山帝)失踪から始まります。正歴元(九九〇)年正月に元服。その月末に藤原道隆の娘定子と結婚し、数年後に清少納言が定子付き女房に加わります。一条帝と定子の結婚期間は十年とそう長くはありませんが、著者はその間柄を「純愛」であったと表現しています。道隆の死後、風は徐々に道長へと吹いていきます。そして彰子の入内。女御宣下を受けたのは十二歳でのことでした。「以後七十余年続く、天皇家の女としての」人生が始まります。
本著では、一条帝を中心とした定子と清少納言、彰子と紫式部にまつわる人間ドラマや、その裏で展開する外戚利権を巡る摂関家の思惑を史料に基づき解説しています。史料も現代語でとても分かり易く引用されています。「枕草子」や「源氏物語」を誕生せしめた時代を紐解くにふさわしい著作です。受験古文の見方が変わるに違いありません。
平安人の心で「源氏物語」を読む
山本 淳子 朝日選書
国語の試験が始まって冊子を開くとなんと古文が『源氏物語』! さあ、あなたは戦意喪失せずに、平常心で試験に挑めますか?
出すところは何回でも出します。たとえば関西大学では過去5年で(確認できただけでも)9回の出題があります。そもそも「作り物語」自体受験生の苦手意識は強いものなのに、「源氏物語」は長編だからそれだけ出くわす回数も多くなるのでしょう。緊張感が漂います。
背景知識として「源氏物語」とその周辺の文化的理解は入試に大いに役立ちます。ですから受験参考書としての「源氏物語」の解説本(マンガも含む)が多数出版されています。ただ受験に特化して「源氏物語」を意識するのではなく、寄り道回り道なのかもしれませんが、世界有数の文学作品である「源氏物語」の世界に専門の研究者の著作を通して触れる機会にしてはどうでしょうか。受験が終わると「源氏物語」に関わりのない人生を過ごす人がほとんどなのですから。
作中で貧しく暮らす姫であっても貴族の女です。その日常生活は現代人には想像できませんが、本著では「源氏物語」の一帖ごとに、あらすじはもちろん当時の文化的背景、登場人物の相関関係などを掘り下げ、平安人の視線で物語を捉えます。平安貴族の生き方・考え方の理解を通して古文学習を発展させてはどうでしょうか。
ちなみに出題に萎縮する必要はありません。特に私立はその大学なりに、注釈や設問文、選択肢等で適度にヒントを示しながら難易度調整してくれています。